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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)2918号 判決

控訴人 カネツ商事株式会社

被控訴人 橋本大平

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し金一六万六、〇〇〇円及びこれに対する昭和四一年一〇月二二日から右完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は第一、二審ともに被控訴人の負担とする。

この判決は、控訴人において金五万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は主文第一、二、三項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、証拠〈省略〉………ほかは、原判決事実摘示の通りであるから、これを引用する。

理由

控訴人が商品取引所法に基く商品仲買人であつて、商品取引市場における上場商品の先物取引の受託等を目的とする会社であること、控訴人が昭和四一年八月八日被控訴人から、東京穀物商品取引所の定める受託契約準則(以下準則という)の規定に従うことと定めて、同取引所市場における売買取引の委託を受け、同日市場前場三節における先物取引として、小豆五枚(一枚四〇俵)を一俵当りの約定値段一万一、二〇〇円で売付したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証、原本の存在及びその成立に争いのない同第三号証、原審における証人松井勝彦の証言及び被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は同日控訴人の商品外務員である同証人に対し一月限一万一、二五〇円の指値をしたが、同日その値段が出なかつたので、同人の勧めで同人に対し一月限一万一、二〇〇円で売付を委託し、同日委託証拠金として二三万円を差入れたことを認めることができ、控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

ところが、原本の存在及びその成立に争いのない甲第四号証、成立に争いのない同第八、九号証、原審証人松井勝彦の証言、同証言により成立が認められる同第一号証、第七号証によれば、準則第八条第三項に、委託追証拠金は委託を受けた売買取引が、その後の相場の変動により、損計算となつた場合において、その損計算額が委託本証拠金の半額相当額を越えることになつた場合に徴することができるものとし、その額は当該損計算額の範囲内とする、ただし、追証拠金を徴する場合にはその徴する事由の発生した日の翌営業日正午までとする旨、第一三条に、商品仲買人は、委託を受けた取引につき、委託者が第八条の規定により委託証拠金を所定の期日までに預託しないときは、当該売買取引の全部または一部を委託者の計算において処分することができ、この場合はその旨をあらかじめ委託者に通知しなければならない旨それぞれ規定されていること、当時相場の変動がはげしく、昭和四一年八月一五日本件市場で成立した小豆一月限の約定値段は前場三節から後場三節までいずれも一俵当り一万二、四〇〇円となつたので、松井が同日被控訴人に対し一枚四万八、〇〇〇円、計二四万円の追証拠金の預託を要求したところ、被控訴人が、本件取引自体を否認して、これを拒絶したので、さらに、被控訴人に対し、これを預託しない場合は、翌日の前場一節で手仕舞する旨を伝えたが、その預託がなかつたので、控訴人は翌一六日前場一六節で本件取引の手仕舞をしたこと、その際の小豆一月限の約定値段は一俵当り一万三、一〇〇円であつたから、結局、被控訴人は本件取引で三八万円の損をしたこと、当時の本件市場における小豆先物取引の委託手数料は一枚当り一、六〇〇円と定められていたことが認められ、被控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

右準則の規定は、本件取引が迅速に処理される必要のある取引であることから考えると、委託者に追証拠金を預託する意思がある場合でも、所定の期日までにこれを預託しない場合は、仲買人は手仕舞することができる旨を定めたものであり、委託者に預託の意思のないことが明白な場合でも、仲買人に所定の期日まで待つことを要求しているものとは解されず、このような場合は、特別の事情のない限り、直ちに手仕舞することができるものと解するのが相当である。従つて、控訴人のした手仕舞は正当であるから、被控訴人が控訴人に対し本件取引によつて生じた損害三八万円、その委託手数料一万六、〇〇〇円、合計三九万六、〇〇〇円から証拠金二三万円を控除した一六万六、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四一年一〇月二二日から右完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による損害金を支払うべき義務を負担していることは明白であり、その履行を求める控訴人の請求は正当である。

よつて、原判決を取消し、控訴人の請求を認容することとし、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条、第一九六条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 近藤完爾 田嶋重徳 小堀勇)

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